2015年9月21日月曜日

『イラストレーション』No.207で気になったこと

今発売されている『イラストレーション」No.207 の記事「著作権をめぐる覆面座談会 前編」を読んでいたら、気になった部分がありました。
少し書いておきたいと思います。

この記事の中で、イラストレーターの発言として「装丁デザインとしての著作権の話になりますよね」とありますが、、、
原則として、「シンプルなデザインに著作権はない」とされています。
装丁も、「シンプルなデザインであれば著作権はない」と思います。(文字の配置だけではない創造性のあるブックデザインが、著作権を認められた判例を読んことがありますが、それはイラストレーション的(あるいはアート的?)なデザインを施していました。一般的なブックデザインには「著作権はない」ようです)
イラストレーションや写真には著作権があります。
参考ページ:
http://www.mc-law.jp/kigyohomu/16275/

電子書籍化する際、出版社が装丁家に使用許諾を取っているのかどうかは、わかりません。
日本図書設計家協会は、1988年に「ブックデザインには著作権がある筈だ」という趣旨の意見書を文化庁に提出しているそうですが、まだ認められていないようです。
http://www.tosho-sekkei.gr.jp/history.html


またーー
この記事「著作権をめぐる覆面座談会 前編」の中で、編集部の発言として「版面権といって、表紙やレイアウトされたページの著作権は出版社に帰属します」とありますが、、、
以前より、出版社は「版面権を認めて欲しい」という要望を出しているそうです。
が、まだ法律とはなっていないはずです。
しかし、近い将来「版面権」が法律として認められる可能性はあるでしょう。
参考ページ:
http://www.weblio.jp/content/版面権
http://blogs.itmedia.co.jp/mohno/2012/01/post-1340.html


従って、イラストレーションが使われた書籍のカバーの著作権は、今の所、デザイナーや出版社ではなく、イラストレーターに著作権があると考えられます。写真の場合は写真家にあるでしょう。

それとーー
この記事の中で、イラストレーターに「古い紙媒体の本をすでに電子書籍化になっているので料金を支払います。」といった内容の覚書が来たという話がありますが、、、
私にも来ています。
これは私が以前、電子書籍出版社協会と話し合って「すべてのイラストレーターに使用許諾が必要だ」ということを認めてくださった結果だろうと推測しています。
http://illustratorstsushin.blogspot.jp/2015/01/blog-post.html

いま、電子書籍出版社協会に所属する出版社が、これまで無許可で出した電子書籍のカバーイラストレーションの著作権者であるイラストレーター一人一人に、使用許諾を取ろうとしているようです。
誠意ある対応をしてくださった出版社に感謝します。



これは蛇足ですがーー
この座談会の中で、イラストレーターの発言として「アメリカでは著作権が出版社ではなく、著者にある」かのような発言もありますが、実際は逆で「アメリカでは著作権が著者でになく、契約によって出版社が握っている」が正解です。著作権を持つアメリカの出版社は書籍を電子化する際、小説家にいちいち許可を取る必要がありません。そのため電子書籍化が進んだと言われています。
参考ページ:
http://matome.naver.jp/odai/2134682231457577401
http://blogs.itmedia.co.jp/mohno/2012/01/post-1340.html



『イラストレーション』誌は、会員や若いイラストレーターに毎号読むことを勧めることも多いです。
影響力も強い雑誌なので、、、
記事にする際、法律家等に確認して、記事内で発言内容を訂正するなりしても良かった気がします。


(イラストレーターズ通信 主宰:森流一郎)

補足:日本図書設計家協会の方々とお会いして、電子書籍への流用において、ブックデザイナーに対する出版社の対応がどうなっているのか教えていただきました。みなさんのお話を総合すると、使用許諾を取ってくださることもあれば、勝手に電子書籍になっていることもあるようです。出版社によって、あるいは編集者によっても違うそうです。勝手に使われているものに対して不満を感じているデザイナーもいるようですが、デザインに著作権が認められていないので、強く請求できないようです。(2015年10月30日)
補足2:出版社の版面権に関して顧問弁護士に確認したところ、「版面権は、著作権法上明記されてません」ということでした。

2015年7月23日木曜日

会員展覧会レポート【オオウラシオリ個展「テーブルマナーに知らんぷり」】






期待の新人の初個展である。
会場に並んだ作品は、ラブリーで、お茶目、そしてチャーミング。
そして何より、おいしそうだ。
食べ物をおいしそうにかけるというのは、大きな武器だろう。

2年近く前、イラストレーターズ通信事務局でアルバイトにきていただいた頃は、まだ東京に出て間もなく、イラストレーションの仕事もほとんどなかったようだ。
それがこの1年ほどで、どんどん実績を積み上げ、すっかりプロフェッショナルとして活躍するまでになった。

この個展をきっかけに更なる飛躍を期待したい。

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オオウラシオリ個展「テーブルマナーに知らんぷり」
会期:2015年7月20日(月)から7月25日(土)
時間:12:00~19:00(※初日:14時から、最終日:17時まで)
会場:CUBE SPACE GALLERY(東京都港区南青山 5-1-27青山ナラビル4階)
http://cube-s.net

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オオウラシオリ「イラストレーターズ通信」ページ
http://illustrators.jp/profile.php?id=1192

2015年7月14日火曜日

会員展覧会レポート【愛川空個展「彼女たち」】




受け取った案内状のイラストレーションに心引かれた。
涼しげな瞳を遠くに向けた女性の横顔だ。
ほのかな息づかいを感じる。
「この女性画に会いたい」そう思って、久方ぶりに青山のギャラリーを訪れた。

そこはーー
いろいとりどりの「花と女性」が並び、お花畑となっていた。


愛川空さんは、かつて抽象に近い作品を描いていた。
その時から才能とセンスを感じさせたが、仕事としては難しい印象もあった。
それが、「花と女性」というテーマを見つけたことで、仕事により近い位置に来ていると感じた。
まだ仕事は少ないというが、「書籍のカバーを描きたい」という目標に向かって、確実に一歩進んだと思う。

ぜひ、更なる進化を遂げてほしい。
期待の才能である。


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愛川空個展「彼女たち」
会期:2015年7月10日(金)から15日(水)
会場:OPAギャラリー
http://opagallery.net

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愛川空「イラストレーターズ通信」ページ
http://www.illustrators.jp/profile.php?id=1094




2015年1月21日水曜日

電子書籍販売ページにおける書影利用にも流用代が必要です

ここ数年、出版社様と話し合ってきた、電子書籍販売サイトでの紙媒体の書籍のカバー画像の使用に関する問題に決着がつきましたのでご報告します。

結論から言うと、電子書籍販売ページにおける書影利用にも流用代が必要であることを、日本電子書籍出版社協会に認めていただきました。
これは、イラストレーターズ通信会員はもちろんですが、すべてのイラストレーターに当てはまります。

ことの始まりから説明します。
それは、2012年のことーー
始まったばかりのアマゾン電子書籍の販売ページを見ていたら、私が昔々に描いた新潮文庫のカバー画像が、その電子書籍版の販売ページでサムネール的に使われていることを、偶然発見しました。
購入すると、電子書籍本体のカバーには使われてはいませんでした。
しかし、購入した電子書籍のサムネール画像が本棚のように小さく並んでいくようです。(いわゆる本棚機能)
電子書籍本体に使われていないものの、販売ページや購入画面で紙媒体のカバーがサムネールとしてに流用されていることに違和感を覚えました。
カバーの著作権は、出版社にではなく、イラストレーターにあるはずだからです。
これは無断使用にあたるのではないか?
そう考えた私はイラストレーターズ通信の顧問弁護士に相談しました。
すると、「書籍カバーの著作権は、買い取りでなければ、そこに使用されているイラストレーションの作者にある。判例はないものの、今回の件は本来2次使用料が発生するべきものだと考えられる。」といった趣旨の回答をいただきました。

そこで新潮社様と連絡を取り、話し合いを重ねてきました。
結果、新潮社様の所属する日本電子書籍出版社協会様(http://ebpaj.jp)で、そうした利用にも著作権者の使用許諾が必要であることを認めてくださいました。
そして、協会内でガイドラインを作ってくださいました。
以下は、新潮社様の担当者よりいただいたメールの引用です。一部機種依存文字を書き換えています。(2014年12月12日のメールです)

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ガイドラインに関しまして
森様より2012年11月に「無断流用」のご指摘を受け、日本電子書籍出版社協会で
検討をかせね、電子書籍における底本の書影利用に関して2013年7月の運営会議にて
文書で配布しました。
配布文書は(A)電子版表紙許諾書ついて(B)冊子版刊行済の電子化許諾書(C)装丁依頼書の3種類です。
(A)の文書内で以下のこと確認しております。
 ↓
【前提・確認】
まず、現状「電子書籍における底本の書影または表紙の利用」状況は、大まかに
1)電子書書店等の販売・宣伝用にサムネイル画像を利用
2)ユーザーの購入記録の目的(いわゆる本棚機能)としてサムネイル画像を利用
3)電子書籍本体に利用(大きい画像)
の3種類で利用されています。
いずれの利用に関しても、「権利者の許諾が必要」であります。
 ↑
*対価に関しまして、利用の内容等で各個社判断ですることとする旨の口頭による説明がありまし
た。
*(B)(C)には利用範囲を明確にすること(電子書籍本体で利用するのか、書影としてサムネイル程度な     
のか)が盛り込まれれおります。ひな型ですので、各個社でアレンジして使用しております。

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このメールを受け取ったあと、
新潮社様から、
1)電子書書店等の販売・宣伝用にサムネイル画像を利用
2)ユーザーの購入記録の目的(いわゆる本棚機能)としてサムネイル画像を利用
で使われているケースでの流用代として、1冊2千円をお振込いただきました。
これは私だけではなく、すべてのイラストレーター(それぞれの書籍カバーの著作権者)に支払ってくださると約束をいただいています。

日本電子書籍出版社協会様に所属する他の出版社様も、責任を持って、上記に引用したメール通り対応していくそうです。
金額は各社が決めるので、協会で2千円と決まっている訳ではありません。

残念ながら、このガイドラインは、協会内で文書として配られただけで、協会のWebサイトでは公表されていません。
しかし、私がインターネット等に公開しても差し支えないとの承諾を得たので、ここで公開することとしました。

なお、このガイドラインは、日本電子書籍出版社協会様に所属する出版社のものです。
ここに所属していない出版社の無断使用に対しては、個別に交渉の必要があるでしょう。
協会に所属する出版社一覧はこちら。
http://ebpaj.jp/aboutassociation


新潮社様を通じて、日本電子書籍出版社協会様には、今もいくつかお願いしています。
1)電子書籍化された場合、その代表的な販売サイトのURLをイラストレーターに教えていただきたい。
2)イラストレーターに、電子書籍も献本していただきたい。
3)電子書籍普及後は、イラストレーターに支払っていただく電子書籍化の流用代を上げていただきたい。

いずれも、引き続き日本電子書籍出版社協会様で検討してくださるそうです。
ただし、現在は電子書籍の献本は技術的に難しく、小説家にも献本していないそうです。しかし、何らかの方法を考えてくださるそうです。

私が過去に描いた書籍カバーのイラストレーションは大量にあり、他にも様々な出版社使用しているのではないかと推測しています。
しかし、時間がなく、まだ探していません。

この無断使用の指摘にによって、仕事を失うかもしれない不安も強くありました。
しかし、イラストレーターの著作権がないがしろになったまま、慣例として定着しかねないことに、危機感を押さえきれず、声を上げました。
その声にに対し、新潮社様、および日本電子書籍出版社協会様は、誠意を持って対応してくださいました。
心からお礼申し上げます。