2012年9月28日金曜日

会員展覧会レポート【尾崎千春個展「I N O R I」】




Gallery Dazzleにて、尾崎千春さんの展覧会が開催中である。
彼女はイラストレーターズ通信の古くからの参加者の一人だ。
私がその作品に惚れ込み、初めて参加いただいたのは5年以上昔ーー
当時、彼女はまだイラストレーションのお仕事をしたことがなかった。
それが、イラストレーターズ通信をきっかけに新聞小説挿絵等様々な仕事につながった。
その実績もあってだろう、本年度から玄光社の『ファッションイラストレーションファイル』にも掲載されている。
イラストレーターとして着実な歩みを遂げてきたと思う。
とても喜ばしく思っていた。
そして今回は初めての個展だ。
わくわくしながら会場に向かった。

会場の扉を開けて、しばし飾られた作品を見回す。
ギャラリーは、尾崎千春カラーに染まっていた。
シックで落ち着いた色使いが彼女の持ち味だ。
どの作品もまぎれもなく、尾崎さんの色なのだ。
話を聞くと、絵の具の色をそのまま使わず、ある二つの色を混ぜて、色彩に統一感をもたせているのだという。
その色は、尾崎さんの心の色でもあるのかもしれない。
ご本人の雰囲気にとても合っている。

そして、尾崎作品で魅力的なのは、なによりも人物だ。
どの作品にも丁寧で生き生きとした人間が描かれている。
その人物がまたいい顔をしているのだ。
それだけではない。
服もいい。皺の1本1本まで上手い。

実はーー
学生時代、服飾の勉強をしていたのだという。
それでも絵が好きで、少々遠回りながらもイラストレーターへの道を歩んできた。
結果として、服がきちんとかけるイラストレーターになったと思う。
どんな遠回りもやがて自分自身の養分となるのだ、と改めて納得する。

昔の作品も素晴らしかったが、独特の世界観が邪魔をして、お仕事としては使いにくさもあった。
それが、新聞小説の挿絵をしてから、大きく画風が変わった。
幻想的で平面的な作品から、日常的で奥行きのあるイラストレーションへと進化したのだ。
新聞小説では、それまで描いたことのなかったもの苦手なものもどんどん描かなければならなかったという。
それが彼女の画風に変化をもたらした。
今回の個展は、変化した作風の、ギャラリーでのお披露目展示ともいえる。

装丁や挿絵等、小説に関わる仕事に興味があるという。
彼女の作品が次々と装丁に使用され、書店に並ぶ様子を想像すると楽しくなる。
いやおそらく、それは現実となるだろう。
今回の個展を拝見して、イラストレーターとしてさらに活躍してゆくだろうことを確信した。

今後も応援していきたい。
私の大好きな才能の一人だから。




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尾崎千春「イラストレーターズ通信」会員ページ


「I N O R I」
会期:2012年9月25日(火)から30日(日)
   12:00~19:00(月休・最終日は17:00まで)
場所:Gallery Dazzle
   東京都港区北青山2-12-20 #101
ギャラリー Webサイト:http://gallery-dazzle.com/



2012年9月11日火曜日

会員展覧会レポート【林けいか個展「きらきら」】




林けいかさんが、これまでの「かわいい」画風とは一変したタッチで個展を開催中だ。
あさって12日までとなったが、会員展覧会レポートをお送りする


ギャラリーの扉を開けた私を、何かの光が包み込んだ。
まぶしい思いで室内を見回す。
そこには、これまでよく知る彼女のタッチとはまるで違う作品が並んでいた。

「きらきら」が展覧会のタイトル。
作品ひとつひとつに光が描かれている。
これが会場に満ちているからだろうか?
林さんにお話を伺いながらも、まぶしい思いは消えなかった。

これまでの作品は「かわいい」キャラクター的タッチの作風で描いてきた。
Photoshopで線画に色を付けたものが多い。

それが今回の個展で飾られていたのはーー
絵の具を塗込めた、もっと大人な作品だった。

「かわいい」タッチでは、雑誌のカット等でお仕事をしてきた。
今後は、展示した作風でもどんどん描いていきたい、装丁や小説挿絵などに活動の場を広げたい、と話す林さん。
そして、作品販売も積極的に行っていきたいのだという。
だから「お部屋に飾って心地よい作品」ということも考えて描いたそうだ。
既に二つの作品に売約済みのシールが貼られていた。

さらに目標はつきないようだ。
この画風にあった人物の描き方がまだ見つからない。
今後の目標は人物だと、笑顔で抱負を語る林さん。
その瞳がまぶしい。

そうなのかーー
ようやく気がつく。
私を包んだ輝きは、イラストレーションに光が描かれていたからだけではなかったのだ。
林さん自身が「きらきら」と光っていたのだ。
未来に向かってまっすぐに進もうとする、林さんの魂の輝きーー
それが作品ひとつひとつにも宿って、空間を満たしていたからこそ、この個展会場でまぶしさを感じたのだ。

まだ発展途上なのかもしれない。
しかし、そのまっすぐな気持ちがあれば、大丈夫だろう。
これから、さらによくなっていくはずだ。

楽しみな才能がまたひとつ増えた。



(イラストレーターズ通信 主宰/森流一郎)
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林けいか「イラストレーターズ通信」会員ページ
http://www.illustrators.jp/profile.php?id=0577

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林けいか個展『きらきら』
会期:2012年9月7日(金)から12日(水)
時間:11:00から19:00(最終日は17:00まで)
場所:OPA gallery(東京都渋谷区神宮前4-1-23-1F)
ギャラリーホームページ:http://www.geocities.jp/opa_gs/

2012年9月5日水曜日

ちょっとしたコンペにおけるコツ

第4回「イラストレーターズ通信」コンペの作品募集中です。
いよいよ締め切りまで、1ヶ月を切りました。
2012年9月30日(日)必着でお願いします。
コンペの詳細はこちら
http://www.illustrators.jp/competition.htm

前回ではーー
「あの人すごかったけれど、作品が1点しかなかったので高い点数を入れなかった。もう少し作品がみたかった」と、審査員のあいだで話題になった応募者が何人かいらっしゃいました。
1点のみだと、たまたま偶然にいい作品が描けたのか、作者の技量が安定しているのか、分かりにくいというのです。
審査員によって選考基準は違いますので一概にはいえません。
しかし、応募作品が3点以上の方が、このコンペでは有利かもしれません。
1点のみの応募で入賞・入選はいないわけではないですが、かなり飛び抜けた才能の方々です。
大賞受賞者だけをみると、1点での応募というケースは、これまでのところ一人もいません。

以上、ちょっとしたコンペにおけるコツでした。
参考にしていただけると幸いです。

皆様のご応募をお待ちしております。


2012年9月1日土曜日

会員展覧会レポート【苗村さとみ企画展「バカンス Les vacances de la femme(女の休暇)」】




最近、話題の書籍がある。
松本清張賞をとった『烏に単は似合わない』(文藝春秋)だ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4163816100

書店では平積みされ、広告もよく見かける。
カバーイラストレーションを手がけているのは、イラストレーターズ通信会員の苗村さとみさん。
その苗村さんのグループ展が、ギャラリーダズルで開催中だ。
先日、その会場に行ってきた。

地下鉄外苑前の駅から外にでたとたん、思いがけないほどの暑さが、身体を包み込むように襲ってきた。
確か、その日の天気予報は、東京の最高気温は35度と告げていた。
アスファルトに覆われたこの街の実際の温度は、それ以上になっているはずだ。
会場に向かう足が、一歩、一歩、重くなる
到着する頃には、頭がもうろうとなりかけていた。

ようやく、会場に入ったところ、涼やかな空気に、頭もすっきりとしてきた。
冷房のおかげもあるだろう。
しかし、それだけではない。
苗村さんの作品が、涼しいバカンスの風を送ってきてくれたのだ。

展覧会のテーマは「バカンス」。
だから、どの作品も夏らしい。
しかし、暑苦しさはない。
つくづく思うーー
イラストレーションとは不思議なものだ。
夏らしいのに、涼しさを生む。

会場正面に並んだ、作品の前にしばし立ち止まる。
女性と花が描かれたものが5点。
美しきモチーフの競演に見とれる。
そして不思議な涼しさに心をゆだねる。
そう、確かにこれはバカンスの気持ち良さだ。

彼女はこれまでも一貫して、大正ロマンの香りあふれる作風で、花と女性をテーマに創作活動をしてきた。
独特の世界観に、使用される仕事の範囲が狭まるという面もあろう。
しかし頑固に守り続けてきたことで、技術・センスに磨きがかかり、近年の作品は驚くほど上質になった。

浴衣姿で迎えてくれた苗村さんに好きなイラストレーターを聞くと、
高畠華宵、高橋真琴、藤田ミラノの名前が挙がって、なるほどと納得する。
どこか高貴な気品は、彼らから受け継いだものだったのだろう。

どうか更なる高みを目指してほしい。
大好きだという偉大な先達に並ぶほどに、自分の世界を完成させてほしい。
期待が大きく膨らんだ。

ギャラリーをでると、またあの暑さが戻ってくる。
つかの間のバカンスが終わったような寂しさを感じた。

展覧会は9月2日まで。
未見の方は、お急ぎ下さい。

(イラストレーターズ通信主宰/森流一郎)




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苗村さとみ「イラストレーターズ通信」会員ページ
http://www.illustrators.jp/profile.php?id=0040


バカンス Les vacances de la femme(女の休暇)
会期:2012年8月28日(火)~9月2日(日)
   12:00~19:00(月休・最終日は17:00まで)
場所:Gallery Dazzle
   東京都港区北青山2-12-20 #101
ギャラリー Webサイト:http://gallery-dazzle.com/

出品者:大窪洋子 草野文香 友田萌衣 苗村さとみ 中村奈々子 村瀬エレナ (DM掲載順・敬称略)