2012年7月9日月曜日

イラストレーターの皆さんへ「お仕事確認書」の勧め


最近、Webや電子書籍等新しいメディアが成長する中で、イラストレーターの立場を危うくする報告が会員から多く聞かれるようになりました。

イラストレーションの発注時には全くそんな話はなかったのに、作品を納品後、あるいは本が出来上がってから、
「イラストレーターは電子書籍等への2次使用も認めること」
あるいは「著作権は、出版社に譲渡すること」
などの使用許諾書ないし契約書を強要された、という相談・報告が増えているのです。
しかも、ギャランティはあらかじめ決めた額のままで、その中に2次使用料や著作権譲渡の料金も含むというのです。
電子書籍などに2次使用する金額も含むのであれば、お仕事の依頼時に相談するのが発注者のマナーであり、義務です。

大変残念なことですが、最近会員の間で問題となっている「後だし」で著作権譲渡を強要するクライアントは、実は一流の大手出版社なのです。私も含め多くのイラストレーターは子供の頃から親しみ、憧れていたイメージのいい企業です。
あこがれの出版社から、ひどい扱いを受けたときの悲しみは、いかに大きいか、私にも痛いほどわかって、大きな失望を感じています。
この現状を「なんとかしたい」との思いから、このブログを書いています。


下請法でーー
親事業者には、発注にあたって発注内容を明確に記載した書面を交付することが義務づけられています。
つまり、著作権を譲渡することが条件であるならば、最初の依頼時に書面を交付して、お互いに同意する必要があります。
後だしで、著作権譲渡を持ち出して強要するのは下請け法上問題があると考えられます。
つまり違法行為なのです。

親事業者とは、個人事業者のイラストレーターにとっては、資本金が1千万円を超える企業がこれに当たります。問題となっている大手出版社は、当然これに該当します。くわしくは、この下で紹介しているパンフレット「コンテンツ取引と下請法」をご覧ください。

下請法には、「不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条第2項第3号)」というのもあり、親事業者が著作権や二次使用権などを無償で譲渡・許諾させることが禁じられています。

全部を説明するときりがないのですが、親事業者の義務や禁止事項は、この他にもいろいろとあるので、ぜひ、パンフレット「コンテンツ取引と下請法」をご覧ください。

また、下請法の対象外となる資本金が1千万円までの会社であっても、
取引上優越した地位にある事業者が、優越的地位の濫用行為を行った場合は、独占禁止法上問題となると思われます。

● 下請法に関してはこちら(公正取引委員会のWebサイトです)
 http://www.jftc.go.jp/shitauke/index.html

● 独占禁止法に関してはこちら(公正取引委員会のWebサイトです)
 http://www.jftc.go.jp/dk/index.html

● 公正取引委員会サイト内にあるPDFパンフレット(イラストレーター必読です)
 「コンテンツ取引と下請法」
 http://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.files/contentspamph.pdf

 「優越的地位の濫用」
http://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.files/yuuetsu.pdf



しかし、クライアントからの一方的な契約書や使用許諾書の強要に、いちイラストレーターが対抗することは難しいのが現実でしょう。
多くは仕事を失うことを恐れて、そのまま同意しているのではないでしょうか?

「イラストレーターズ通信」では、お仕事の前に「お仕事確認書」を交わすことを奨励しています。
イラストレーションのサイズ・点数・使用範囲などをあらかじめ書面で確認することで、取引上のトラブルを出来るだけ避けようというものです。

イラストレーターズ通信会員はもちろん、会員以外のイラストレーターにも使用を開放しています。
もしよければご利用ください。

「お仕事確認書」はこちらからダウンロードして下さい。
https://www.dropbox.com/s/aapvof6jx61xnsw/oshigotokakuninnsyo.pdf?dl=0

もちろん万能ではありません。何らかのトラブルになったとしても、「イラストレーターズ通信」では責任を持ちかねます。
また会員以外の皆様からの質問・相談には応じておりません。
恐れ入りますがご了承ください。


イラストレーターの皆さんが、トラブルに巻き込まれることなく、いいお仕事に恵まれることを願っています。


イラストレーターズ通信 主宰 森 流一郎

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追伸:「お仕事確認書」は、ご自身が使いやすいように、内容をアレンジしてもかまいません。
ただし、少しでも内容を変更した場合は、「制作/イラストレーターズ通信」という部分は削除してください。
こちらで把握していない変更が行われたものに、イラストレーターズ通信という名前を使うのはご遠慮ください。

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追伸2:もうずいぶん古いブログが、Twitterで紹介されて、たくさんの方にご覧いただいているようです。そこで、今更ですが、、、現状とあっていない部分や誤字などを修正しました。(2014年5月4日)

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追伸3:「お仕事確認書」を修正し、アップし直しました。
最初の「お仕事確認書」を作ったのは、もうずいぶん昔です。多忙な中、あわてて作ったものの、いろいろと不満もありました。ずっと、「修正したい」と周りにはもらし続けてきました。会員のツイートで、思いがけずたくさんの方に知られることとなったので、「このままではいかん」と、頑張ってみました。一人でも多くのイラストレーターのお役に立てれば幸いです。(2014年5月6日)

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追伸4:イラストレーターズ通信会員の皆さんには、下請法や著作権法について詳しく説明し続けてもう何年にもなるのでよく判ってもらえていると思います。
しかし、会員外の方にはこのブログを読んだだけではよく判らないことも多かろうと思います。
「著作権譲渡ってつまりどういうこと?」
「譲渡すると何か困るの?」
「イラストレーターにとって著作権て何?」
「イラストレーターの権利って?」
「お仕事確認書ってどう使うの?」
「著作権譲渡を迫られているけど、どうしても断れない。どうしたら断れるの?」
「『ガイドラインでイラストレーターは著作権譲渡することが決まっている』っていわれたけど本当なの?(もちろん嘘です)」などなど、、、
残念ながら、ここで簡単にすべてを説明できる才能を持ち合わせておらず、、、力不足で申し訳ないです。
いつか顧問弁護士に監修を頼んで、下請け法や著作権法その他、イラストレーターが知っておくべき法律知識の情報サイトを作りたいと思っています。
とはいえ、私はあまりにも多忙で、多忙で、、、自分の時間がなくなっているのはもちろん、最低限やらねばならないことも出来ないほど忙しい日々が、二十数年続いていて、、、どうにもならない状態です。
いつ時間が出来るかお約束は出来ないのですが、、、気長にお待ちいただけると幸いです。
繰り返しになりますが、イラストレーターズ通信会員以外からの質問や相談には応じかねます。ご了承ください。

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追伸5:「著作権譲渡に応じないことを伝えたら仕事が流れた」「『著作権譲渡に応じていただけるイラストレーターにだけお仕事をお願いしています』と、婉曲に著作権譲渡に応じないと仕事が流れるといわれた」という報告が今もたびたびあります。こうした出版社の姿勢が改まらない場合は、公正取引委員会に相談することを考えています。被害にあった会員は、会員掲示板での報告をお願いします。(2015年4月7日)